デザインのある光景Number: 40
Subject:
Kurume Ikat
Text: Yoshiko Taniguchi
Photo: Kyoko Omori
Mother Comet No.52 | 2020.July
発祥は江戸時代の後期。井上伝(でん)という少女が考案した「久留米絣」。絣とは、織る前の綿糸をくくって染め、別染めの糸を縦横に織り合わせると、かすれたような模様になる独特の技法。旧久留米藩周辺で発達したことが名前の由来で、現在は福岡県の筑後地方が主な産地だ。
広川町で3代続く坂田織物は、藍染の古典柄だけでなく、多彩な色使いや新柄の開発にも熱心な織元。カラフルでポップな生地は着物という従来のフィールドを超え、現代の暮らしに合う洋服や雑貨などにも商品化されている。写真は個性豊かな久留米絣を1枚ずつ撮影、配置したものだ。
「かつて100以上あった織元は、現在20弱となりました。複雑で多岐にわたる工程は約30あり、完成まで2カ月弱かかります。次第に『伝統を守ることにこだわった商品は消費者に必要とされているのか?』と感じるようになって。久留米絣の技術や特徴を生かしながら、時代のニーズに応えられる新しいことに挑戦しようと決めました」。
減少する着物需要の中、織元ならではの発想や強みを活かし、早くから洋服や小物などを作ってきた両親のDNAを受け継ぐ3代目の和生さん。デザイン性を高め、若い世代をターゲットにした新ブランドを立ち上げ、2017年にはニューヨークでの販売にも挑んだ。「ニューヨークで久留米絣は無名なので、評価の基準は素材の良さや着心地という本質だけ。にも関わらず、現代風にアレンジした“もんぺ”(1本300〜400ドル)は嬉しいことに完売。長い伝統や複雑な工程を理解してもらえなくても、物が良ければ買ってもらえるんだと、意識が大きく変わりました」。
今春、高度な技術を体現できる人に与えられる「重要無形文化財伝承者」に認定された和生さん。「新しいことに挑戦するには、まずは伝統を理解し、技術を体得していることが大事。久留米絣を知ってもらうための手段や販路などは時代とともに変化していますが、代々続く坂田織物としての矜持は大切にしているつもりです」。
織物好きだった伝さんが筑後地方にもたらした「久留米絣」というイノベーション。和生さんが挑戦している様々な取り組みも、200年続く伝統文化「久留米絣」を継続、発展させるための次なる‟革新“なのかもしれない。