デザインのある光景Number: 36
Subject:
MOSAIC TILE MUSEUM Tajimi
Text: Yoshiko Taniguchi
Photo: Kyoko Omori
Mother Comet No.48 | 2020.March
のどかな時間が流れる多治見市の住宅地に、突如現れる独創的な建物は2016年にオープンした「多治見市モザイクタイルミュージアム」。旧笠原町役場跡地に作られた施設は、モザイクタイル(1枚の表面積が50㎠以下の小型タイル)の生産量・シェアともに日本一を誇る笠原町のタイル業界の有志たちが、タイルの魅力や情報を発信するために作ったミュージアムだ。
ずば抜けているのは、手書きのイラストに奥行きが加えられたのか?と見紛うほどの不思議な存在感。設計を担当したのは自然素材を自由な発想で建築に取り入れ、世界から注目を集める藤森照信氏だ。ミュージアムスタッフ・村山閑さんによると「外観はタイルの原料となる粘土の採土場がモチーフ。多治見は山を削って粘土を採掘するので採土場が崖のようになり、山の上に松が生えているのですが、当館の屋根にもちゃんと松が生えているんですよ」。
藤森氏の遊び心はまだある。大きな建物の小さな入口へ続く小道や、外壁に埋め込んだ陶器の破片は小花にも見えメルヘンチック。館内の大きな階段は登り窯を連想させ、まるで巨大な土のトンネルだ。あえて薄暗くした階段をのぼり4階の展示室に到着すると、雰囲気は一変。外光が燦燦と降り注ぐ真っ白なタイル張りの世界が広がる。建築ファンでなくてもワクワクする仕掛けが満載だ。
「笠原町は人口1万人ほどの小さな町ですが、原料やタイルのメーカーは20社以上、商社やタイル加工業者も50~60社ほどある“タイル産業の町”。ですが近年、古い建築と一緒にタイルも壊されているような状況に危機感を募らせていた町の有志たちが、モザイクタイルをコツコツ集め、20数年で1万点ほどになったんです」。
町の産業を守りたいという熱い想いに共感した藤森氏が5年をかけて作った同館は、タイルの魅力や歴史、活用方法を理解しながら、工作も楽しめる施設。外観のインパクトからSNSで画像が拡散したこともあり、入館者数は約3年で見込みを超える50万人を達成したそうだ。
モザイクタイルはDIYブームやデザイン性の高さから復調の兆しもあるという。小さな町で作られる小さなタイルには、大きな可能性が秘められている。