デザインのある光景Number: 32
Subject:
The Nagoya Castle Hommaru Palace
Text: Yoshiko Taniguchi
Photo: Kyoko Omori
Mother Comet No.44 | 2019.November
江戸時代の民謡「伊勢音頭」の一節「尾張名古屋は城でもつ」。“名古屋の繁栄は名古屋城のおかげ”という意味合いだが、今も市のシンボルかつ、市民の誇りである名城だ。
そんな城内に工事期間10年、総事業費約130億円をかけて復元された「本丸御殿」。徳川家康の9男であり、初代尾張藩主・徳川義直の住居かつ政庁として1615(慶長20)年に建てられたものだが、1945(昭和20)年の空襲で天守閣とともに焼失。天守閣は戦後の復興で1959(昭和34)年に再建されたが、本丸御殿は2009年に工事を着工、2018(平成30)年に完成公開となった。
「本丸御殿の凄みは、400年前の光景が今も同じように見られることです」。そう話すのは、名古屋城観光ガイドボランティアの石川さん。幸いにも名古屋城は江戸時代の図面や記録、昭和初期の実測図、戦前の写真など、第一級の史料が保管されていたため、本丸御殿の構造や意匠は、類を見ないほど正確に復元。専門家たちの深い知識と現代の職人たちの高い技術によって、VRやARなどのバーチャルに頼らないリアルな復活を可能にしたのだ。
「絵画の復元模写は、焼失を免れた襖絵や天井板絵をもとに、顕微鏡やコンピューターなどでミクロ単位の調査、分析を実施。当時に近い紙や顔料を使って作業が行われています。建物に使用する木材も当時と同じ木曽ヒノキを集め、木目もまっすぐな柾目(まさめ)にこだわるなど、関わった職人さんたちは本当に大変だったと思います」。
なお「本丸御殿」は30以上ある部屋ごとに使用目的や題材が異なるため、同じデザインのものが一つとしてない。特に最も煌びやかな「上洛殿」(写真)は、狩野派による襖絵・天井板絵、極彩色で彩られた緻密な欄間、贅を尽くした飾金具に至るまで、豪華絢爛。徳川家の威風とダイナミズムを一つずつ丁寧に蘇らせた研究者、職人たちのほとばしる情熱が肌で感じられ、まるで数々の芸術品を美術館で鑑賞しているかのような気分になった。
なお、本丸御殿同様、貴重な史料を元に忠実な木造復元を目指している天守閣。令和になってもやっぱり「尾張名古屋は城でもつ」。勇姿を復活させた名城は、どんな景色を見せてくれるのだろうか。今から楽しみに待ちたい。