デザインのある光景Number: 29
Subject:
LIGHT YEARS MORE LIGHT
Text: Yoshiko Taniguchi
Photo: Kyoko Omori
Mother Comet No.41 | 2019.August
あえて目立つ看板を掲げず、一見何の店か分からない店に出合うことがある。そういう店は総じて感度が高く、こだわりの店が多い、という個人的見解を持っているが、JR博多駅から歩いて約10分の場所にある「ライトイヤーズ」も、まさにそんな店。林立するビル群の隙間にあり、見逃してしまいそうなほどシンプルな店構えだが、実は全国からインテリア愛好家やクリエイターたちが足を運ぶ、話題のセレクトショップなのだ。
圧巻なのが、世界を飛び回り、エッジの効いた商品を見つけてくる、その審美眼。代表の前田淳さんと細矢直子さんが「自分たちが好きなもの」という直感で買い付けた商品は、モロッコの伝統的なラグ「ベニワレン」をはじめ、インドのビンテージキルトから南アフリカの手編み椅子まで多種多様。モロッコの砂漠で作ってもらっている陶器、インドのビンテージキルトを奄美大島で泥染め・藍染めした布など、オリジナル商品にも取り組んでいる。
アパレル業界に身を置き、洋服の卸業で手腕を発揮していた前田さん。引っ越しの際、自宅用のラグを探すためモロッコを旅したことから、世界の布を集め始め、2013年に「ライトイヤーズ」を。2016年に世界のカゴを集めた「1834」、2018年には、民芸品やオブジェなども取り扱う「モアライト」をオープンさせた。
今回撮影したのは、3店舗目となる「モアライト」の内観。壁一面を占める大きな棚は、1930年代にフランスの金物屋で使われていたものだが、「見た瞬間、ショップのイメージが頭の中に広がった」と一目惚れし、細々としたネジや釘ごと一括購入。物の目利きだけでなく、内装やディスプレイにも卓越したセンスをもつ前田さんが広い倉庫を改装。まるで博物館のような趣を感じさせる空間は、第一線で活躍する専門家たちも一目置くほどだ。
「伝統的で、魅力的な手仕事のものを集めるうちに、いろんな人たちが面白がってくれるようになって…。東京などでも展示会をするようになりましたが、生まれ育った福岡を拠点に仕事ができているのは嬉しいことです」と前田さん。なお「1834」はアポイント制、「モアライト」は少々マニアックなので、まずは「ライトイヤーズ」で世界の掘り出し物に触れることをお勧めしたい。