デザインのある光景Number: 27
Subject:
Mysterious stainless mirror -Ripples-
Text: Yoshiko Taniguchi
Photo: Kyoko Omori
Mother Comet No.39 | 2019.June
水面が光を反射し、揺らぐ光景を切り取ったような1カット。見る人によってイメージが異なるであろう、謎めいた被写体の正体は「ミステリアス ステンレスミラー リップルス」と名付けられたステンレスのパネル。宝石や大理石が、磨くことで美しい輝きを放つのと同様に、ステンレスも磨きあげることで多彩な表情をみせ、素材本来の輝きと個性を放っていく。
金属に“磨き”という化粧を施し、デザイン性の高い金属板を制作しているのは福岡県太宰府市にある「東洋ステンレス研磨工業株式会社」。創業51年で培ったさまざまな技術を複合させ、ステンレス、アルミ、チタンなどの金属表面の意匠研磨技術で世界有数の技術を確立。金属を「削る・叩く・磨く」などのコンビネーション(=3次元研磨)で自由度の高い表現を可能にし、加工前の素材から製品までの表面処理を一貫して行える技術においては、国内ではオンリーワン。「世界でも稀な技術であり、日本独自に進化した製法です」と社長の門谷豊さんは胸を張る。
「たとえば、金属で鏡のような表現をしようとしたとき、メッキを貼るという選択肢もあります。でも、本物の金属を磨いたときの質感や輝き、表面の解像度の高さは、メッキとは比べ物になりません。本物だからこそ表現できる強さ、魅力を広めたいんです」。
ステンレスのマーケットは巨大で、国内の中心は関東や関西などの大都市。10パーセントほどの生産圏しかない九州の、福岡にある小さな工場が生き延びるためには、常に新しい技術を開発し、時代に適した商品を提供し続ける必要があった。写真のような特殊な金属意匠は、日々試作・開発を繰り返してきた努力の賜物であり、「受注した仕事を単にこなすだけでなく、新しい価値を生み出そう」という強い意思の表れでもある。
やがてたゆまぬ努力は実を結び、世界的建築家、フランク・ゲーリーの作品(L.A.のディズニーコンサートホールや、N.Y.の超高層ビル)で外壁パネル加工を担当。近年では日本製鉄株式会社と純チタン(99.9%)の3次元化にも取り組んでおり、ゴールド色は共同特許を取得している。
「どんな金属でも研磨や堆積という技術で化粧を施せば、無骨だった金属の表情に輝きと美しさ、そして高い付加価値を与えることができるんです。これからも “金属化粧師”としてのプライドを胸に、革新的な表現のお手伝いをしたいと思っています」。