デザインのある光景Number: 24


Subject:

Chikuzen openwork
sword guard

Text: Yoshiko Taniguchi

Photo: Kyoko Omori

Mother Comet No.36 | 2019.March

平成27年、日本刀を擬人化したゲームをきっかけに広がり続ける刀剣ブーム。「突然、女性が鐸(つば)を作って欲しいと訪ねてきて。話を聞いたら、持っている刀はおもちゃだったんですよ」と苦笑するのは、北九州市「技の達人」に認定されている鐸職人の長嶺雅臣さん。1年に1枚しか作れないことを告げると、刀剣女子は何も言えず帰ったそうだ。

鐸とは、日本刀の柄と刀身の境に挟み、手を防御するためのもの。古墳時代から存在し、装飾されるようになったのは室町時代後期。平和が続く江戸時代には、芸術性が求められ技術も進化。尾張、京、肥後などの流派も生まれ、腕利きの鐸工たちが傑作を残している。

機械工だった長嶺さんが鐸と出会ったのは35歳のとき。本で肥後鐸の名工・佐々木恒春氏の作品を見て「一生をかけるのはこれだ」と直感。弟子入り後、働きながら3カ月に一度宮崎に通う生活を10年続けたが、制作する姿はおろか道具も見せてもらえなかったそうだ。

想像以上に厳しい世界。師匠からものづくりに対する覚悟や勘を磨く姿勢を学びながら、技術は独学。入門の翌年から新作名刀展で初入選を果たし、平成7、19、21年には日本一を獲得。創作歴は37年を超え、今や平成を代表する肥後鐸工だ。

写真は、美しい鉄肌に緻密な文様が浮かび上がる「家紋透し鐸」(右)と、平成19年に日本一に輝いた「吉野川透し鐸」。通常は「家紋透し」のように伝統意匠を写した図柄が多い中、長嶺さんは幼い頃から得意だった絵の才能を生かし、オリジナルの図柄を考案。これを「筑前透し」と名付け、川の流れで遠近法を取り入れるなど、独自の世界観を表現している。もちろん、こうした表現を可能にするのは100本以上のヤスリを使い分け、髪の毛よりも細い線や穴に金をはめ込む象嵌、透かした文様に丸みを持たせる肉置きなど、卓越した技術が不可欠。到底、おもちゃの刀にはそぐわない一級品なのだ。

幾度もの大病を乗り越え、命を削りながらもヤスリを手放さない長嶺さん。「心の貧乏はするな。金のことは考えるな。時間をかけろ」という亡き師匠の教えを守りながら、遺産として残すべき伝統工芸との真剣勝負を続けている。

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