デザインのある光景Number: 23
Subject:
Mt.Fuji
WORLD HERITAGE CENTRE,
SHIZUOKA
Text: Yoshiko Taniguchi
Photo: Kyoko Omori
Mother Comet No.35 | 2019.February
2013年6月に、世界文化遺産に登録された「富士山」。この価値を「永く守る」「楽しく伝える」「広く交わる」「深く究める」ために誕生した「静岡県富士山世界遺産センター」。古来から日本人に愛されてきた「逆さ富士」を展示棟のモチーフとし、水盤に木組みの富士山を映し出すという鮮烈なデザインで、2017年12月の開館以来、話題を集めている施設だ。
この印象的な建物を設計したのは、フランスの「ポンピドゥー・センター・メス」や「ラ・セーヌ・ミュージカル」など、著名な作品を世に送り出している坂茂(ばんしげる)氏。被災地の仮設住宅、避難所の間仕切りシステムなど災害支援でも広く知られ、2014年に建築界のノーベル賞と称される「プリツカー賞」、2017年には人類への類いまれな貢献をした個人や団体に贈られる「マザー・テレサ社会正義賞」を日本人として初めて受賞するなど、我が国を代表する建築家の一人である。
「そんな坂氏が手掛けた「静岡県富士山世界遺産センター」は、展示方法も実にユニーク。逆円すい形の展示棟の内部には、最上階まで続くらせん状のスロープがあり、内部の壁面に投影された“それぞれの標高における富士登山道からの風景”を見ながら上がることで、登山を疑似体験できる仕組み。年齢や国籍を問わず、さまざまな人たちが気軽に富士山の自然や文化、歴史について学ぶことを可能にしている。他にも高山帯から駿河湾までの生態系を紹介するゾーンや、文学・美術の側面から富士山をひも解くゾーンなどもあり、世界遺産として評価された「信仰の対象と芸術の源泉としての富士山」を、いろんな角度から体感させる仕掛けで、来館者を飽きさせない。
そして全長193mのスロープを登り、疑似登山を達成した最上階には、大きな窓で風景を絵のように切り取る「ピクチャーウィンドウ」から、本物の富士山を望むという、とっておきのご褒美が待っている。日本人に影響を与え続け、崇拝の対象となってきた富士山の眺めは雄大で美しく、私たちはここで改めて、「富士山」の魅力に心奪われるのだ。