デザインのある光景Number: 18
Subject:
Umeda Intake Tower
Text: Yoshiko Taniguchi
Photo: Kyoko Omori
Mother Comet No.30 | 2018.September
大阪出身者(しかも梅田付近で生まれ育った人)に「梅田吸気塔を取材する」と告げると「何それ?どこにあるの?」と首を傾げていたが、現場に着くと、知人の発言理由が理解できた。この建物はJR大阪駅のすぐ近く、阪神梅田本店や阪急うめだ本店に囲まれた大阪・キタの一等地にあるのだが、車の往来が激しい道路上にできた三角地に建っており、街の雑踏一部として見過ごされてもやむをえない環境にあった。
だが「梅田吸気塔を見に行く」と目的を明確にした我々にとって、それはとてつもない存在感を放っていた。高さ14~18mの巨大な銀色の柱が、街中に突如5本も現れるのだ。しかもステンレス製のパネルは1枚ずつ丁寧に鋲で留められ、自由な曲線を描いている。この独特の造形美を考案したのは、昭和の建築士の礎を築いた異才・村野藤吾だ。
「梅田吸気塔」は1963(昭和38)年、当時極めて先進的だった「梅田地下街(現・ホワイティうめだ)」開業に併せて作られたもので、名前の通り地下街の換気を行うための塔だ。おそらく単純な形にしても、その役割を果たすであろう吸気塔に、あえてデザインを施した巨匠の真意を確かめる術はもうないが、55年という歳月が経ち、周囲のビル群が様変わりしても、吸気塔は当時のデザインのままどっしりとそびえ立ち、梅田の景観に静かなインパクトを与え続けている。
今回撮影した角度だと、右手には今年6月に建て替えられた阪神梅田本店の、幾何学模様のような外観と重なり、カメラの画角は一気にアート空間になった。他の角度からは、フランスの建築家、ドミニク・ベローが設計した「富国生命ビル」を一緒に眺めることができ、建築好きには堪らない一角になっている。
存在感を放ちながらも、不思議と都市の景観に溶け込んでいるのも「梅田吸気塔」の凄さ。写真を見れば「あぁこれね!」「見たことある」と膝を打つ大阪人が多いのかもしれない。