デザインのある光景Number: 16
Subject:
The Metropolitan Area
Outer Underground Discharge Channel
Text: Yoshiko Taniguchi
Photo: Kyoko Omori
Mother Comet No.28 | 2018.July
これから迎える、本格的な台風シーズン。近年はゲリラ豪雨や暴風雨で甚大な被害を受けた地域などもあり、水害や防災への関心を高めていきたいこの時期に、タイムリーな施設を訪ねた。場所は埼玉県春日部市。東武野田線「南桜井駅」からバスやタクシーで10分程度の場所にある「首都圏外郭放水路」だ。
この施設は、地盤が低く、洪水がたまりやすかった春日部市と周辺市町の浸水被害を防ぐ目的で作られた、トンネル形式の排水施設。地下50mの場所にある全長6.3kmのトンネルには、最大で毎秒200立方メートルの洪水を流すことができ、その規模は世界最大級。完成した平成18年以降は、浸水戸数・面積ともに大幅に軽減させるなど、威力を発揮。完成してから10年間で100回以上の水を流入させ、平成27年9月の台風では東京ドーム15杯分の水を取り込んだという、スケールの大きい施設だ。
今回撮影した「調圧水槽」は、地下トンネルから流れてきた水の勢いを弱め、江戸川へスムーズに放水するための巨大な水槽。地下へ続く116段の階段を降りると、長さ177m、幅78m、高さ18mという巨大な地下空間が眼前に広がる。1つの重さが約500トンある柱が59本そびえ立つ幻想的な光景は、さながら異国の地下神殿のようだ。「この太い柱は、地下水の揚圧力よって調圧水槽が浮くのを抑えるために必要な荷重で、サッカーグラウンドほどの広さも、緊急停止時に発生する逆流の水圧を調整するために必要なんです」と、国土交通省 江戸川河川事務局 首都圏外郭放水路管理支所 管理第一係長の長(おさ)康行さん。意図的にデザインされたものではなく、技術者たちが知恵を出し合い、国内最高峰の土木技術を駆使して作り上げた、圧倒的な構造美。フォトジェニックな調圧水槽は、話題になることで施設自体に興味を持たせ、訪れた見学者たちの防災意識を高める役割も担っている。
実際に、インパクトのある画像はメディアやネットなどを通じて国内外に広がり、昨年度の来場者数は過去最高の3万7,000人と、記録を更新中だ。人気の見学会は1人からでも参加可能で、予約制。特に月2回開催している土曜日はすぐに満員になることから、夏の期間限定で回数を増やすことを検討している。詳しくはホームページで確認を。