デザインのある光景Number: 15


Subject:

Berami Sanso

Text: Yoshiko Taniguchi

Photo: Kyoko Omori

Mother Comet No.27 | 2018.June

市街地から徒歩で行けるほど近い場所にある高塔山(北九州市若松区)。四季折々の花が咲き、標高124mの頂上からは響灘や洞海湾の絶景も楽しめる、区のシンボル的な存在だ。今回目指す「ベラミ山荘」がある場所は、その山の中腹。目立った案内板もなく、本当にここでいいのか?という不安の中、取材のために解錠してもらった門から敷地内へ。うっそうとした木々の隙間を縫うように石段を下りていくと、写真の塔が見えてきて、少し安堵する。目的地に到達するまでのドキドキ感、野趣あふれるアプローチも、この場所が持つ魅力のひとつだ。

写真は、かつて「日本一の石炭積出港」と謳われた若松で、大人の社交場として名を馳せたキャバレー「ベラミ」の従業員たちの寮(通称=ベラミ山荘)から庭園を撮影した1枚。「ベラミ」とは、昭和30年から50年代にかけ、きらびやかな衣装を身にまとった踊り子たちが連日ショーを行い、ホステスやボーイも大勢働いていたという、マンモスキャバレーだ。

詳しい記録は残っていないが、昭和59年に寮を閉鎖したあとは元オーナーが所有していたものの、次第に忘れ去られていく。過去の写真を見ると、庭園は当時きれいに刈られた植栽などから手入れが行き届いていたようだが、50年ほど経過した現在は、ちょっとした森のような状態に。元オーナーの自作だという塔は、1階が鳥小屋、2階は海と工場群が見渡せる空間(囲炉裏付き)という、何とも不思議な建物なのだが、今は朽ちて廃墟となっている。

そんな中、約4年前に現在のオーナーが購入したことにより、止まっていた時間が少しずつ動き始める。寮に残っていた荷物の中からは、当時全国各地で活躍していた元踊り子や芸人、歌手たちの宣材写真、約1,400枚を発掘。昭和のエンターテイメントを色濃く映し出す、インパクトのある写真はじわじわと話題になり、今春は東京・新宿でも「おんなのアルバム キャバレーベラミの踊り子たち」と題した写真展が開催されたばかりだ。

この場所を誰よりも愛おしみ、楽しんでくれるオーナーと巡り合ったことで、行きを吹き返した「ベラミ山荘」。想像力を駆り立てる、魅惑の世界観を体感したい方は、毎月第3日曜日に開催されている「ガラクタ市」をお見逃しなく。

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