デザインのある光景Number: 8
Subject:
night view of the factory
Text: Yoshiko Taniguchi
Photo: Kyoko Omori
Mother Comet No.20 | 2017.November
かつて四大工業地帯の1つであり、日本の近代化産業を牽引してきた北九州市。今も湾岸には大規模な工場が存在感を放ち、煙突からは白い煙がたなびく。北九州市民にとっては見慣れた風景である工場群が、夜になるとその雰囲気を一変させていく。
灯りに照らされるのは、群れをなす複雑な構造物の塊。闇の中に、むき出しの配管や巨大なタンクなどが妖しく浮かび上がる光景は、SF映画にでてくる無機質な未来都市、はたまた要塞のよう。これが意図的にデザインされたものではなく、あくまで機能を追求して作られた結果としての“構造美”なのだから、スケールの大きさも含め、圧巻としか言いようがない。
こうした圧倒的な光景を船上から臨む「工場夜景」は北九州の観光ツールとなっており、毎週土曜には「北九州夜景観賞定期クルーズ」が開催されている。小倉港発と門司港発の2コースを運航しており、毎回大勢の参加者が船上からの幻想的な光景を楽しんでいるそうだ。
「参加者の5~6割は観光客ですが、意外に地元の方々の参加も多くて。みなさん、自分が住んでいる町にある工場の、知られざる一面に驚いているようです」と教えてくれたのは、北九州市産業経済局観光課の平谷宏一郎さん。北九州は工場の規模が大きく、何より1901年に近代製鉄業が始まり、世界に誇れる産業と技術がこの地で誕生したという歴史と物語がある。「ガイドの話に耳を傾けながら眺める夜景は見ごたえ十分です」と、平谷さんは胸を張る。
クルーズで見られる鑑賞スポットはコースによって異なるが、今回被写体に選んだのは「新日鉄住金化学㈱九州製造所」。製鉄の副産物であるコールタールを原料とする炭素材料、プラスチック原料などの製造をはじめ、携帯電話やパソコンに使用される回路基板材料、光学ディスプレイ材料の製造などを行っている巨大な工場だ。
夜空に浮かびあがる工場群が教えてくれるのは、昼夜を問わず人が働き、物が生み出され続けている現実。それは、過去から受け継いだバトンを握りしめ、今も、未来もモノを作り続ける北九州のリアルだ。工業都市の歴史と凄みが夜空ににじむ、週末限りのナイトクルーズ。申込み・問合せは「関門汽船」で検索を。